COLUMN
2020/10/09
お腹が痛くなる時に大事なことは以下の3つです。
これらを整理してお話しいただけると、診察や問診もスムーズになります。
「胃痛」と言う言葉がありますが、医学的には使わない言葉です。なぜなら「胃が痛いです」という患者さんの症状は本当に胃の痛みかは分からないからです。ざっくりと「お腹の上の方は胃、下の方は腸」という分け方でも大丈夫ですが、それぞれの臓器が痛む理由には以下の特徴があります。
みぞおちあたりに不快感が出て、胸のあたりまでこみ上げるような気持ち悪さがあります。胸やけやげっぷ、「胸が痛い」と話される方もいます。胃酸が食道へ逆流することによって起こるので、胃酸の分泌が増える食後に症状が起こることが多いです。
シクシクとしたみぞおち付近の痛みが出ます。押すと痛いこともしばしばです。吐き気を伴うことが多く、実際に吐くこともあります。食事をとると痛みが悪化します。
こちらも胃炎と区別がつきにくく、みぞおち付近の痛みが出ます。胃炎との判別は食事をとると楽になることがあります。
肝臓は右わき腹にあり、肋骨に守られるように位置しています。基本的には「肝臓が痛む」ということはありません。肝臓癌ができてもよほど大きくなければ痛くありません。沈黙の臓器と呼ばれる所以ですね。急性肝炎、肝膿瘍、クラミジア感染症(フィッツ・ヒュー・カーティス症候群)などでは痛みが出ることもありますが、その場合は発熱や吐き気など他の症状を伴うことが多いです。
胆嚢は肝臓にぶら下がるようにくっついているため、右わき腹が痛くなります。特徴としては、胆嚢は木の実のようにぶら下がっているため、みぞおちや背中、右下っ腹など胆嚢の向きによって痛む場所が変わることがあります。胆石が原因で痛むときは、飲酒・食事をきっかけに痛くなり、吐き気が伴うことが多いです。
膵炎では飲酒や胆石の落下を原因にみぞおちや背中が痛くなります。また、「膵臓癌では腰が痛くなる」と聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。しかしこれは半分正解で半分は間違いです。膵臓癌で腰が痛くなる原因は、癌細胞が背中の神経叢に浸潤するからです。癌の治療をしなければ良くなることはありません。つまり「ときどき腰が痛くなる」といったふうに、良くなったり悪くなったりする腰痛は癌が原因のことは少ないと思っていただいて大丈夫です。
小腸と大腸はあわせて7-8mもあり、それが折りたたまれてお腹にしまわれています。つまりその中のどこを便が通っているか、どこで炎症が起きているかによって痛む場所は変わります。「右や左、真ん中やみぞおち」など、その時々で痛む場所が変わる場合は腸の痛みであることが多いです。また、腸の痛みは「腸が動く」ことによって起きます。「痛いときと楽な時で波がある」と話す患者さんが多いです。
虫垂炎(盲腸)では発症から数日でみぞおちから右下腹部へ痛みが移動することが有名です。進行すると吐き気がひどく食事がとれなくなります。
お腹が痛い原因は上記のように様々なので、大事なことは医師の診察を受け、お腹を触ってもらうことです。しかし受診までの間に何かできないか?と思われる方もいらっしゃると思います。
最も大事なことは、「お腹が痛いときに食事を無理にとらない」ことです。特に受診するほど痛みが強い時は、受診の前に食事をとることは控えてください。水分の摂取は少々ならばOKです。受診いただいた時に腹部超音波検査や胃カメラを行うことができなくなってしまいます。
※漢方、アレルギー薬、抗ウイルス薬など一部のお薬では食後で効果が弱まることがあります。食事がとれない時はどうしたらよいか、主治医の先生に確認してください。
※糖尿病のお薬の中には、食事をとらずに薬を飲むと低血糖を起こしてしまうものもあります。食事がとれない時に糖尿病のお薬を飲んで良いか、主治医の先生に確認しておきましょう。
食欲がない時は、無理に食べずに水分の摂取くらいで過ごすことも大事です。お腹が痛いときに食事をとると、臓器に負担がかかってしまいます。お腹が痛いときは、「臓器を休めてやる」という意識を持つと良いと思います。もちろん食事をとらないだけでなく、仕事や運動を無理にせずに、安静に休まれることも大事です。
上記のような対応で良くならない、いつまでも食事がとれない、だんだん腹痛が強くなる、腹痛の他に発熱している、便の色がおかしいなどの際は、正確な診断が必要なため受診をご検討ください。当院は毎日消化器の専門医が専門外来を行っています。